幸福はただ私の部屋の中だけに


森鴎外の娘、森茉莉の随筆。紅茶が好きな私は、初めに『紅茶と薔薇の日々』を手に取った。この本と『贅沢貧乏のお洒落帖』と『幸福はただ私の部屋の中だけに』がちくま文庫から立て続けに出ていて、装丁も同じ方達でされていて、丁度衣・食・住のシリーズのようになっている。衣も食も好きで、三冊ともそれぞれに好きな箇所がたくさん散りばめられている。全体的にこの方は子どもがそのまま大人になったような可愛らしさで、「パッパ」である森鴎外に溺愛されて育ったのがそこかしこから分かる。例えば、『紅茶と薔薇の日々』の「大変なお嬢様育ち」では、鴎外が家事は一か月もやればすぐにできるようになる、それよりもピアノだ、フランス語だ、と家事は全く習わなかったことなど書いている。また、贅沢三昧に、大切に育てられた茉莉は、『幸福は~』の「ぜいたくは自分の気分で出せる」の中で「大体わたしは面倒臭いことは嫌いだし、節約も大嫌いなのだ。貧乏臭いことも嫌いだ。」とはっきり書いている(笑)。ここまで書いて、森茉莉のいいところが全然伝わってない気がするけど、ついでにもう1こエピソード追加(笑)『幸福は~』の中の「大掃除とはどんなことをするもの?」(真面目に書いてるから余計に笑える)「育つときに女中がいて、何でもしてくれたからこうなったのだ、という理由は、いちおう人をうなずかせはするが、女中が何人もいた人がぜんぶ私のようになるかというとそんなことはないので、」と書いていらっしゃる。ちゃんと分かっていらっしゃるの。そして最後に、「私もたまに、稽古だといって、ハタキをかけたり、畳を掃いたりしたが、女中が毎日しているうえに、半年に一度植木屋が徹底的に畳もふいていたから、すっかりお化粧のできた顔をパフで、サッサッと仕上げをするようなもので、ホコリもあまり立たなかったのである。これは、大掃除はどうやるのか知らない、という女の話である。」だそうです。

私の父も、私も、たぶん子どもを甘やかすタイプなのかもしれないのだけど、自分自身のことを考えてみても、愛された思い出というのは、実用的な料理の仕方だったり、躾だったり以上に、「生きる力」に転化されるのではないかなー、などという気持ちもあり、今日も甘やかしてしまっているのかもしれないな。。。いや、でも躾は必要ですよね。

『幸福はただ私の部屋の中だけに』 森茉莉著/早川茉莉編 ちくま文庫 2017年 (森茉莉全集より、テーマに沿って編者が編んだアンソロジー)


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