岩波新書『読書会という幸福』にて紹介されていた本。
獄中にて、気が変にならないように、気を紛らせよう、楽しいことを考えようと知っている映画の話をする一人の囚人。そして、眠れないからと、それに耳を傾けるもう一人の囚人。
極限状態で食べ物を分け合い、物語を共有し、夜を過ごす。
友情や愛情はいかにして育まれるのかという縮図にも思える。
アマゾンのコメントによると、著者のプイグは映画の脚本家だか監督をめざしていたらしく、映画に詳しいらしい。(出てくる映画はB級映画らしい)
『蜘蛛女のキス』は『千夜一夜物語』のように、親物語と子物語が入れ子状態で語られるのだが、映画の方のストーリーも魅力的だし、人生の本質を突いているし、気づきをたくさん与えてくれる。
語られている映画に夢中になっているうちに、親ストーリーもいつのまにか進行していて、重要な事実が発覚したり、それぞれの囚人にまつわる事実が明らかになっていく。
ちなみに、この本を紹介していた『読書会という幸福』では、著者が冒頭で自らの生い立ちを述べる。愛情らしい愛情が得られなかった中で、本であったり、読書会であったりが間違いなく自らの命をつないでくれた、というようなことが述べられていた。
本は純粋に読んでいて楽しいし、希望なり欲望なり生きる力なりを与えてくれたりするわけだけれども、根本的に人が本を求めるのはなぜなのか、ということを考えた場合、孤独を癒すため、あらゆるネガティブなことを癒すため、なんだろうな、ということを思い出した。
『蜘蛛女のキス』 マヌエル・プイグ著 野谷文昭訳 集英社文庫 2011年
EL BESO DE LA MUJER ARANA by Manuel Puig c1976